耕作放棄地の増加がもたらす影響と解決策

農家には仕事を管理する人や、不作の時にも補償してくれる人がいないので、農地で実際に耕作がおこなわれているかどうか曖昧でもあります。

農業従事者の人口はかなり高齢化しており、病気によって農作業を休止し、そのまま亡くなってしまうケースが頻発しています。

手が付けられていないこうした農地のことを耕作放棄地を言い、現在問題になっています。

今回は、農作放棄地の定義と問題点、解決策に焦点を当てていきます。

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耕作放棄地は定義が曖昧で対策しづらい問題

耕作放棄地は、字義通り「耕作を放棄した土地」という意味ですが、さらに細かく定義付けすると、「過去1年以上は耕作がされていない農地」という意味になります。

耕作放棄地といっても1、2年程度手を付けていない程度であればすぐに復元することができますが、10年以上放棄された土地は復元は難しいでしょう。

このように、耕作放棄地といっても、雑草を刈り取るだけで元通りになるのか、時間と手間さえ加えれば元通りになるのか。あるいはもう復元不可能な状態なのかによって大きく変わります。

耕作放棄地と休耕地・遊休農地の違い

耕作放棄地、休耕地、遊休農地はそれぞれ意味・用法が少しずつ異なります。

名称 定義
耕作放棄地 農家の意思によって1年以上耕作を放棄された農地
休耕地 農地・農家の意思に問題はないが、病気や経済的理由で耕作を休止している農地
遊休農地 自家用農作物の栽培などがメインで耕作や手入れの頻度が少ない農地

休耕地は耕作放棄地をしばしば混同されがちですが、耕作放棄地が上記の意味なのに対し、休耕地は農地自体に問題はなく、農家にも耕作の意思があるにもかかわらず何らかの理由で作業を休止している土地のことを指します。

一方、遊休農地とは、耕作をしてはいるが頻度は少なく、手入れの質も低いため、放棄はされていないものの状態が悪い土地のことを指します。

ただ、これらの用語が厳密に使い分けられているわけではなく、所有者の意思で耕作が滞っている農地は全て耕作放棄地と表記されているのも、対策が遅れている一因となっています。

耕作放棄地の深刻な現状

農林業センサスの調査によると耕作放棄地は昭和後期にすでに増え始め、今では農地全体の10%以上を占めています。

調査年度 耕作放棄地の面積
1990年 21.7ha
1995年 24.4ha
2000年 34.3ha
2005年 38.6ha
2010年 39.6ha
2015年 42.3ha

耕作放棄地の面積は増えている一方で農地全体の面積は年々減少しているので、放棄率の上昇率は年々上がっています。

こちらの限界集落問題の記事にも書きましたが、活用されていない土地があることは国の経済にとってマイナスであるため、更に放棄率が上がる前に解決しなければならない課題です。

https://fudosansatei-tatsujin.com/kisochishiki/genkaishuraku/

地域によって異なる耕作放棄率

耕作放棄地の分布は地域によって異なり、特に以下の地方で高くなっています。

耕作放棄地が多い地方(2010年度調査より)
地方 耕作放棄地の面積
東北地方 76,112ha
関東・東山地方 100,719ha
中国地方 40,815ha
九州地方 60,570ha

関東地方のように、農地が狭い地域で耕作放棄が増えている一方で、農地の広い北海道では耕作放棄が進んでいません。

広い農地であれば大型の機械を活用できるので農家の手間を抑えることができますし、利益も見込めますが、狭い農地は運用が難しい上に使える機会も限られてくるので、耕作放棄率が上がってしまっています。

特に関東・東山地方はビルの新築や道路の開発なども影響して耕作放棄の割合が極めて高く、全国の耕作放棄地の4分の1を占めており、早急な対応が必要となっています。

高齢化だけでない農作放棄地増加の原因

農作放棄地が生まれる大きな原因は、やはり農家の高齢化、後継者不足があります。

そもそも農業自体が生産性の低い体力仕事であり、農村の近くには便利な商業施設が少ないので、若者に農業をさせるハードルは極めて高いです。

ただ、高齢化やニーズの変化以外にも、農作放棄地が増加する理由は多くあり、解決を難しくさせています。

はたしてどんな理由があるのか。ここから詳しく見ていきましょう。

耕作放棄地を第三者が活用するハードルは高い

農地をもう使わないのであれば、普通の土地と同じように活用してしまえば良い話ですが、農地法という法律で、農地の活用は制限が加えられています。

農地法は簡単に言うと「農地を購入できるのは農家だけ」ということを示しており、放棄地の二次利用を制限しています。

では、農地を一旦更地にしてしまってから取引や活用をすれば良いわけですが、この手続きにも厳しい制限が加えられています。

国は、衰退しつつある農業を保護するためにこうした制限を加えているのですが、かえって農地活用・取引の柔軟性が失われてしまっています。

農業は新規参入が難しい

都会の喧騒に疲れたサラリーマンや退職者が地方で農業に挑戦するというケースが増えています。

「自然に囲まれて自給自足をする」と言うと聞こえは良いのですが、新規就農は決して簡単ではありません。

まず、農地法により農地の取得を制限されているので、まずは他人の土地を貸してもらい、腕を磨いてからでないと自分の農地を持つことができません。

せっかく良い耕作放棄地を見つけたとしても、簡単に利用できないのが現状です。

加えて、新規参入してくる方の多くは蓄えがある中高年以上です。

農業は最初に器具や肥料を揃えて、初期投資を回収していく仕組みになっているので、若年層には取り組みづらいという点も後継者不足につながっています。

後継者の都市圏進出がより解決を困難にさせる

現在、農業従事者の年齢は65歳以上が多くなっており、将来彼らが亡くなれば、農地は子どもたちに相続されます。

子どもたちの多くは都市圏の企業に従事しているサラリーマンになっているので、田舎の農地をもらったところでどうすることもできません。

物件や更地であれば売却することもできますが、前述の通り農地取引には厳しい制限が加えられているので、簡単に手放すこともできない状況です。

このように、所有者が遠方にいる農地は管理が行き届かないので、復元不可能になってしまうことが多いです。

資産として農地を持ち続ける人々の存在

市街化が進み、生産力の低下を引き起こすことのないよう、農地取引には厳しい制限があります。

しかし、人間の「快適な生活を送りたい」という欲求がある以上は市街化を止めることはできませんし、2020年の東京オリンピックに向けて首都圏に近い農地はどんどん転用されていくと考えられています。

このケースのように、「今は農地法で制限されているが、将来的には高額の需要が発生する」と信じて、耕作放棄地を所有し続けている農家も少なからず存在します。

「農業をせずに農地を所有し続けるのは無駄遣いでは?」と考える方もいらっしゃるでしょうが、農地は固定資産税を宅地と比較してかなり少額に抑えられているので、所有し続けることは可能なのです。

税金の減免は農地保護のメリットではありますが、それが結果的に耕作放棄地の増加を招いていますし、防止策として農地の課税を強化する動きもあるので、あまりおすすめの方法とはいえません。

耕作放棄地問題の解決に向けた取り組み

耕作放棄地を放っておくのは国にとってはもちろん、所有者本人にとってもメリットが少ないです。

農家の方自身の体調が悪い場合はどうしようもないですが、あまりにも不作で放棄する場合は、日当たりがよいことを活かして太陽光パネルを設置したり、農地を貸したりして利益を得ることも可能です。

ただ、こうしたビジネスをおこなう場合はまず農地の地盤改良などをおこなう必要があるので、大変手間がかかりますし、初期費用も多額です。

成功する確信がない場合は、以下のような問題解決に向けた取り組みを利用するがおすすめです。

交付金・補助金を利用しながら農地を復元する

耕作放棄地の復元を支援する取り組みは国や自治体でおこなわれており、2018年までは緊急対策交付金が放棄地復元作業の支援金として交付されます。

それ以降も、多くの自治体が用意した補助金を、復元作業の支援に割り当てることになっています。

相続した土地が遠方にある場合でも、この制度を活用して復元さえしてしまえば、売却をしたり、貸し出したりできるようになるのでお得です。

ただ、補助金の額は自治体の経済状況によっても変化するので、利用する前に相談してみると良いでしょう。

農地集積バンクを使えば効率良く耕作放棄地を処分できる

第2次安倍政権が掲げる戦略の1つに、「農地の集積化」があります。

これは、耕作放棄地や小規模農地を一気に借りて整備してしまい、法人や経営者に管理してもらうことを目指すものです。

上記で狭い農地の運営は大変だということを述べましたが、集積することで作業の軽減と効率化を同時におこなえます。

こうした集積化のために農地集積バンクが都道府県に設置され、借り受けの申請を募集しているので、ここに応募するのも一つの手です。

ただ、農地であれば何でも借り受けてくれるわけではなく、復元可能な耕作放棄地であることが条件なので、最低限の管理はおこなう必要があります。

耕作放棄地問題は日本農業の死活問題

アベノミクスの一環として実施されている農地の集積化は一見上手くいくようにも感じますが、大規模農家がどんどん生まれていくと、小規模農家は淘汰されてしまうリスクがあります。

生産率をアップさせるには集積化は間違った方法ではないですが、農業従事者の数は集積化で更に減ってしまうので、将来的にもメリットがあるわけではありません。

現在は助成金や補助金が準備されているので、それらを利用しながら復元を優先で進めていき、どうしても無理であれば農地集積バンクに貸す・売却するのが理想的でしょう。