今から少し前、「限界集落」という言葉がニュースで多く取り上げられ、話題となりました。
それから数年経ち、民間主催の地域活性化イベントなどが盛んにおこなわれていますが、限界集落の問題は悪化の一途をたどっています。
地方の郊外部で起こっている問題のため、都市圏在住の方には関係ないようにも思いますが、こちらで紹介されている空き家問題と同様に、放っておくと国全体のリスクになりかねません。
悪化する限界集落問題。その原因とリスク、解決方法に焦点を当てていきます。
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目次
限界集落問題はなぜ起こってしまうのか
限界集落の定義は、以下のように集落の年齢構成によって決まっています。
集落の状態 | 人口の年齢構成 |
---|---|
準限界集落 | 55歳以上の人口が全体の50%超 |
限界集落 | 65歳以上の人口が全体の50%超 |
危機的集落 | 65歳以上の人口が全体の70%超 |
限界集落はある日突然生まれるのではなく、以上のような段階を踏んでいくのが一般的です。
こうした地域では農林水産業や土着の製造業が経済の中心になっているので、人口の流出入も極めて少なく、少子高齢化の影響を強く受けてしまいます。
そのため、新しい準限界集落が生まれても対策することができず、どんどん事態が深刻化してしまうのです。
出ていったきり戻ってこない若者の存在
今日本では、全国的に農林水産業が衰退し、都市部のサービス業に経済の中核が移ってきています。
こうした流れをうけて、郊外で生まれ育った若者はチャンスを求めて都市部にどんどん移り住んでいる状態です。
郊外が衰退している責任を政治に求める声も少なくありませんが、収入に格差があるということ以前に、力仕事で休みのない農業を忌避する若者は増えていますし、商業施設・娯楽施設が周辺にある便利な生活は多くの人にとって魅力的なので、必ずしも政治で解決できる問題ではないでしょう。
中には減り続ける若者を公共事業によって引き留めている自治体もいますが、公共事業の雇用と収入は税金によってまかなわれているので、根本的な問題解決とはいえないでしょう。
平成の大合併が限界集落問題を深刻化させた?
平成の大合併とは、2005~6年に特に活発化した市町村合併の動きです。
この動きによって小さな町村が次々に統合されていき、地域の数は以前の半分程度になりました。
表面上は地域の経済力、労働力の偏りが解消されたように見えますが、集落・コミュニティは以前と同じ規模で構成されているため、根本的な解決とはなりませんでした。
むしろ、表面上は限界集落の実態が見えづらくなったので、問題を拡大させてしまったとも考えられます。
このように、限界集落の問題は決して行政上の地域区分で起こっているのではないということを理解しましょう。
土地に対する考え方の違いが高齢者の孤立を生む
ここまで紹介してきたのは、限界集落の経済的、政治的な問題でしたが、その他にも「土地に対する考えの違い」という解決し難い原因も限界集落を助長しています。
限界集落を解決したいのであれば、数少ない住民の都市移住を国が支援し、土地を企業が有効活用するという方法も考えられますが、実現にまでいたってはいません。
集落に住む高齢者の方々にとって、故郷の土地は「一生そこで暮らして、守るもの」であり、若者のように簡単に移住するのは考えられないからです。
限界集落問題とは離れますが、相続した使い道のない土地を所有し続け、税金の支払いに悩むのも、比較的年齢が高めの方が多いです。
使い道がないなら売却してしまったほうがお得なのはわかっているのに出来ないというのは、もはや損得を超えた感情なので、説得するのは難しいですね。
限界集落の増加が全国に及ぼす影響
国会議員が地方活性化政策を軽視する発言をしてバッシングされている光景がニュースでよく取り上げられますね。
事実、国の政治経済の中心機能は東京や首都圏に密集しているので、正直「彼らの言うことも正しいのでは?」と考えた方も多いことでしょう。
しかし、限界集落は放っておくと国の経済力の低下や、前述の空き家問題を引き起こすので、決して地方のみの問題ではありません。
一つの限界集落は雪崩式に次の限界集落を生み、いずれは全体に被害をもたらすと考えられています。
遠方の過疎がなぜ国全体のリスクとなっているのか。詳しく解説していきます。
農林水産業・伝統産業の衰退
前述のように農林水産業よりもサービス業に比重がおかれるのは先進国に共通した傾向ですが、若者の流出は後継者不足を招き、衰退を加速させていきます。
このため、2016年度は38%だった日本の食料自給率(カロリーベース)は更に低下していくと考えられます。
自給率が低下すると今まで以上に外国産の食品に頼らざるを得なくなり、今までのように安全性や衛生面に気を使うのが難しくなってしまいます。
また、文化を支えている伝統産業や、精密機器の部品製造は過疎地域が担っていることが多いですが、後継者がいないと技術の継承が途絶えてしまい、日本経済に損失を与えます。
地方自治体のコストの増加
地域の運営コストは地方よりも都市部の方が当然かかりますが、都市部はその分住んでいる人の数も多いので、税金の徴収も上手くいきます。
一方、限界集落の場合は税の担い手自体が少ないので、一人当たりの負担が多くなってしまいます。
ただ、集落に住む高齢者に大きな負担をかけても税金は上手く回収できないので、他の地域に負担が回るようになります。
まだ、こうした税収の大転換が起こるという具体的な話は出ていないですが、そうせざるを得ない状況が近づいているということです。
限界集落は空き家・空き地の無駄遣いを引き起こす
前述の通り、限界集落から都市部に出て戻ってこない若者の存在が問題を助長しているわけですが、集落の高齢者が亡くなった場合は、彼らが相続人となります。
こうした地域の不動産は査定額も低く買い手も付かないので、結局空き家・空き地のまま放置されてしまいます。
ただ、限界集落には少なからず人が住んでいるので、企業が彼らをないがしろにした土地活用などはできずじまいとなっています。
大手メーカーは地方によく工場を建設していますが、国土の狭い日本がさらに発展するためには、何でも都市部に設備を集めるのではなく、このように限られた国土を有効活用することが求められます。
限界集落には空き地や空き家が多数あるにもかかわらず上手く活用することができないので、これも国にとって大きな損失です。
限界集落問題の解決に向けた取り組み
限界集落の問題は前述の通り、起こるべくして起こった部分もかなりあります。
お金をかければ必ずしも解決する問題でもないので難しいですが、現在、多くの民間団体が「地域活性化」をテーマに、課題解決に向けて取り組んでいます。
また、自治体や企業も近年は地域活性化に取り組んでおり、全体的な気運は高まっています。
取り組みの前例がないため、団体もお金をかけて取り組みづらいことが多く、なかなか成果に結びついてはいませんが、活動の輪は着実に拡大しているようです。
民間の支援団体が増加
現在、地域活性化活動をしている団体の数は増加しています。
特に注目されているのが大学生のサークル活動の一環で地域の祭りの手伝いなどをおこなう組織であり、若者とのふれあいが少ない限界集落の住民に好評です。
都会のマンションで生まれ育った学生がはじめて田舎の雄大な自然や人の温かみに触れたということも多く、学生側にもメリットがあるようです。
こうした団体ができる支援は一時的ではありますが、とにかく集落と外部の人をつなげることで孤立をさせないということは非常に大切です。
イベント事業や再生事業で独自の魅力を伝える
SNSを活用した取り組みで特に注目されているのが、イベント事業や再生事業です。
大きな土地を利用して大規模なイベントを仕掛けるのがイベント事業で、空き家などを有効活用して宿泊施設や資料館などにするのが再生事業です。
イベント事業は、近年特に人気アニメとのタイアップなどが盛んにおこなわれており、再生事業の一環である空き家の民宿活用も「都会の喧騒を離れて非日常的な時間を味わえる」と好評です。
こうした事業を通して、都会とは違った田舎の良さをSNS等で発信することができ、結果として移住者の増加や若者の都市流出防止につながります。
ITを中心とする積極的な企業誘致
限界集落の最大の問題はお金と人がいないことですが、これを解決する最高の方法が、企業の誘致です。
企業の拠点があれば転居者が発生しますし、地域への貢献も見込めるので、多くの限界集落が企業誘致をおこなっています。
特に注目されているのがIT企業の誘致で、設備さえあればどこでも活動できるので、地方にサテライトオフィスを持つ企業も増えています。
地域住民の賛同と、ある程度の地域資源が必要な方法ではありますが、それよりもお互いが成功を確信して動くことが大切です。
限界集落問題は多角的な視点で議論することが大切
民間団体や企業の支援は拡大していますが、今後の人口推移をみると、確実に限界集落の数は増加するでしょう。
実際に今までも年々限界集落の数は増えており、今後は消滅する集落も現れることでしょう。
こうした問題に対して真摯に取り組むのは素晴らしいことですが、識者の中には「産業のメインが世界的に転換したのだから限界集落が生まれるのは当然で、大した問題ではない」と考える方もいます。
中には「企業や自治体からの支援を受けるばかりで、自分ではなにも対策を講じていない」と、限界集落の住民を批判する声というのも少なからず、存在します。
また、この問題でよく批判の矛先に挙げられる都市部に流れる若者ですが、彼らからすると「生まれた場所で一生過ごせ」と言われることを不公平に感じているでしょうし、都市部に出ざるを得ない状況にした親世代に責任があると考えているかもしれません。
視点によって要点が変化する限界集落問題。さまざまな視点で議論することが、解決への第一歩でしょう。